この記事では、FP1級の実技面接試験で出題される可能性のある不動産の贈与に関する情報をまとめて解説します。
あくまで実技面接試験という短い時間で話をする前提で必要となるであろう情報をまとめていきます。
なお、このページは国税庁のページを参考にして作成しています。
想定問題
相談者AさんはX社の代表取締役でありX社本社とその土地を保有している。
個人と法人の資産を明確に区分するために土地建物をX社の所有にしたい。
X社は余剰資金があまりないため売買ではなく贈与による移転にしたいと考えている。
なお、X社の株主はAさんとAさんの長男である。
このときの課税関係について教えてください。
3つの課税関係
この設例の場合、3つの課税関係が考えられます。
- 贈与者であるAさんにかかる所得税
- 受贈者であるX社にかかかる法人税
- Aさん以外のX社株主であるAさんの長男にかかる贈与税
以下、それぞれ解説していきます。
1.贈与者であるAさんにかかる所得税
不動産を贈与するだけで、Aさんに所得税がかかることに疑問を持つかもしれません。
以下、所得税法第59条の引用です。
(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
所得税法 | e-Gov法令検索
所得税法第59条によると、法人に資産を贈与すると、その資産の時価で資産の譲渡があったと ”みなす” ことになります。
例えば、Aさんが時価1億円の不動産をX社に贈与すると、AさんはX社に1億円で売却したとされ、Aさんに1億円の譲渡所得があったとみなされてしまいます。
短期譲渡所得なら39.63%、長期譲渡所得なら20.315%の課税です。
お金は全く手元に入っていないのにも関わらずこの課税が発生してしまいます。
2.受贈者であるX社にかかかる法人税
X社が不動産を受け取ることで、その不動産の価額分だけ利益が発生し、発生した利益に対して法人税がかかることになります。
ただし、法人税は年間の利益を計算してから課税されるため、法人税が発生するかどうかは年間の利益額により、利益がない場合は法人税は発生しません。
なので損失の発生に合わせて贈与するのも一つの手かもしれません。
3.Aさん以外のX社株主であるAさんの長男にかかる贈与税
関係ないように思えるAさんの長男に対しても贈与税がかかる可能性があります。
これについては相続税基本通達9-2に記載があります。
(株式又は出資の価額が増加した場合)
9-2 同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)
(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者
第9条《その他の利益の享受》関係|国税庁 (nta.go.jp)
この通達に基づくと以下の通りに解釈できます。
- 会社に対し無償で財産の提供があった場合・・・AさんからX社への土地建物の贈与
- 株式や出資の価額が増加した場合・・・X社が土地建物を保有することで資産総額が変動し株式評価額が変わる
- その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額・・・変動した株式評価額のうち、長男が保有する割合(例えば長男が株式10%保有しており、500万円株式評価額が変われば50万円)
- それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする・・・増加した金額がAさんから長男へ贈与があったものとする
したがって、AさんからX社へ土地建物を贈与した場合、長男へ贈与税が課税される可能性があります。
FP1級実技試験で聞かれた場合は?
私の場合は「Aさん、長男、X社にそれぞれ課税リスクがあるので税理士と相談したうえで方法を検討します。」と回答します。
そのうえでどういった課税かを聞かれた場合に所得税、法人税、贈与税のことを説明します。
ただ具体的な課税額等を聞かれる可能性は低いため、課税パターンを理解しているということを面接官に示すだけで十分だと思います。
さいごに
今回は個人法人間の不動産の贈与についてのまとめでした。
過去の設例をみても代表である個人が法人が使用している土地建物を保有しているケースは少なくありません。
実際私が受けた設例もそのパターンでした。
贈与という形ではなかったものの個人法人間の資産の整理について問われました。
Aさんの所得税、X社の法人税の課税に関しては学科基礎編での出題もありますので改めて整理するのもいいかもしれません。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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